60.訪問

自室に戻ってからも、トキオの頭にはヒメマルの言葉がぐるぐる回っていた。

確かに顔はどちらかというと正当派の美形顔で、身長もあって、ほどよく筋肉がついたスマートな体型で、それなりに自信があるのはわかるが…
ああまではっきり言い放てるのはすごい。

その上、好きな相手が他の誰かと寝ていても平気、どころか、それを楽しんでいるなんて、惚れたらやきもちの固まりになるタイプのトキオからすればもう、神の領域だ。

-そこまで悟れなくていいから、あの前向きさ少し分けてもらいたいよなぁ。

トキオは基本的に何事にも前向きな性格なのだが、こと色恋に関してだけは完全に後ろ向きだ。
この性格の為に、何度も恋の機会を目の前にしながら自分から避けてしまっていた。

-いいよなぁ。

どれだけ羨ましくても、ものの考え方などそう簡単に変えられるものではない。

ドアがノックされた時もそのことを考えていたので、気楽に
「はい~?」
と出て、
「よう」
とダブルが現われても、頭が働かなかった。
「お邪魔!」
部屋に踏み込まれた時点で、やっと風呂の話を思い出した。

「やっぱロイヤルはいいよなあ~」
部屋を見回してから、ダブルはトキオの方へ向きなおった。
「お前さんもまだ入ってねえんだろ、一緒に入ろうぜ!」
「ぅえ!?い、いや、先、入れよ、俺は後でゆっくり」
「いいじゃねえか、自分で脱がねえなら脱がしちまうぞ」
指を重ねてボキボキと鳴らしながら迫ってくるのを両手で制しながら、
「風呂、でかい男2人には狭いから、な?な!」
と言うのにも、まるで動じずに迫ってくる。
「うそつけぇ、ロイヤルの風呂が広いのくらい知ってんぞ~」
こちらに向けられた指がウネウネしているのを見て、トキオは観念した。
「わわわかった。自分で脱ぐ、脱ぐから、この指はしまってくれ」
「よおーし」
ダブルはカラカラ笑って、さっさと脱ぎはじめた。

ダブルの大胸筋は、とても盗賊のものとは思えない逞しさだ。
「…なあ」
トキオは、素朴な疑問を口にした。
「なんでずっと盗賊やってんだ?長いことやっててメリットのある職じゃないだろ。結構経験積んでるみたいだし、そんだけ体出来上がってたら、侍でも忍者にでもなれるくらいの能力あるんじゃないのか?」
「あぁ、そりゃあ」
ダブルは片目を覆っていたバンダナを外した。
目のあるべき位置には、派手な傷痕が走っている。
「片目じゃやっぱり距離感が掴めなくてな、肉弾戦やる前衛になる勇気はねえんだ」
「あ、そうか。それはそうだよな」
トキオは納得して、頷いた。

「お前さん、いいな」
ダブルの口元が弛んだ。
「へ?」
「素直で」
「え??」
きょとんとしているトキオの胸を、ダブルは指で軽く突いた。
「早く脱げよ」

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