53.バンダナ

ヒメマルがクロックハンドに「明日は休みなよ」という伝言をしに行った後、代役に適任の人材が見つかった。
掲示板を見ていたブルーベルが、手招きしてトキオを呼ぶ。

<当方、E、盗賊、ヒューマン。10階まで探索経験有り。26才男。
 探索経験5階以上のパーティでの短期雇用求む。日雇い可。
 払いはその日の稼ぎ÷人数。現物支給も可。
 但し女のいるパーティ不可。逞しい男のパーティ大歓迎。
 御用の方はギルガメッシュ奥、片目のバンダナまで>


張り出された直後らしかった。
後ろでもの欲しそうに見ている連中がいる。今決めなければ他に獲られるだろう。
トキオはそのメモを剥がすと、店の奥を見回した。

バンダナの男がひとり見つかった。
隻眼なのかファッションなのか、確かに片目を覆うように巻かれている。
バンダナ以外の衣装は黒で統一されていて、忍者のようなイメージだ。
服はノースリーブで、見えている浅黒い肩が、なかなか逞しい。

目が合った。

男は、0.2秒ぐらいでざっとトキオを観察すると、愛想よく手を振った。
いかにも男好きという感じだ。

「交渉してくる」
トキオが言うと、
「僕も行く」
ティーカップが立ち上がった。
「逞しい男好きだぜ。お前は筋肉はついてるけど-」
どっちかっていうとスリムで綺麗なタイプ、と言いかけて、口にするのが悔しくなった。
「君は人を見る目がなさそうだ」
トキオは一瞬ムッとしたが、そういえば、皆初対面だったのに大きな問題もなく付き合えている今のパーティを集めたのは、ティーカップだ。
「邪魔すんなよ」
2人は盗賊のテーブルに向かった。

戦いに参加しないぶん、盗賊との交渉は簡単だ。
これが前衛や術者だと、性格が合わないことが致命的なミスに繋がったりする。
トキオは気負わずに声をかけた。

「お前さんがリーダー?こちらじゃなくて?」
盗賊は人当たりの悪そうな外見に似合わず-むしろ気さくな調子でそう言った。
地味ないでたちの僧侶のトキオと、豪奢なロードのティーカップを見比べて、少し意外そうな顔をしている。
「こいつは派手なだけだよ」
トキオが言うと、即座にティーカップはトキオを指して言い返した。
「彼は頑丈なだけだがね」
トキオが苦虫を噛み潰したような顔になる。
ティーカップはてんで無表情だ。
「はぁっは!仲がいいみたいだな」
細い目のその男は、カラカラ、という表現が一番しっくりくるような声で笑いながら立ち上がった。大き目の2人と対峙しても見劣りしない体格だ。

「日雇いだな?」
男が確認する。
「しばらく一緒にやってもらうかも知れない」
ティーカップが言うと、
「じゃあ、明日一日使ってみて決めてくんな」
盗賊は手を差し出した。
ダブルだ」
「俺はトキオ」
「ティーカップだ」
2人で順に握手する。

ひとまず、一日分の交渉が成立した。

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