52.責任
「酷ですよ」イチジョウが溜め息をついた。
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侍の持ってきたものは、蘇生の呪文のエネルギーで肉体の燃え尽きた-つまり、蘇生に失敗したミカヅキの"灰"だった。もう一度失敗すれば灰すら消滅して、蘇生は永久に不可能になる。
-それなら、ミカヅキが普段何度も何度も口にしていた、「クロックハンド」に最後のチャンスは任せた方がいいんじゃないか-
というのが、彼らのパーティで出した結論だったらしい。
その中の一人であるホビットのビショップはミカヅキに好意を持っていて、「灰を渡したくない」と喚いていたのだ。
そのホビットが昨晩、灰になったミカヅキを持って宿に泊まったことを聞くと、クロックハンドは壷をイチジョウに渡してから、後衛にしておくのが勿体無いほどの素晴らしいパンチで彼を殴り飛ばした。
目を回しているビショップの足に蹴りを入れてから壷を抱えなおしたクロックは、サムライに短い礼を言い、パーティに挨拶をすると、夕食を残したままで宿に帰って行った。
*
「…確かにロストしてから報告に来られるよりはいいですけど」続けながら、イチジョウが眉間に皺を寄せる。
「彼氏の命、自分次第…か…」
トキオが呟くように言った。
GであれEであれ、パーティのメンバーがカドルトを使って失敗した場合の心理的なダメージのリスクを考えると、蘇生はカントで行うのが一番だ。
カントでの蘇生は滅多に失敗しない。
一度目の蘇生に失敗した上、二度目も失敗する確率は非常に低い-と言っていい。
しかしあくまで「低い」だけであって、可能性はゼロではない。
Eであっても、恋人の蘇生を依頼して失敗した場合に、全く何も感じないでいられる者は多くはないだろう。
その時に責めたくなるのは、カントの坊主どもだけではない。
その日、その時間に蘇生の依頼をした、自分自身だ。
クロックハンドは、最後の蘇生のチャンスと一緒に、ロストの際に心の傷を負うという役割も受け取ったのだった。
「クロック…、明日、無理かもね」
ヒメマルが頬杖で言った。
「明日だけで済むか?」
ティーカップの言葉に皆、それもそうだ-という顔になる。
今日行ってロストしたらどうしよう。
明日の方がいいかも知れない。
これを毎日ぐるぐると繰り返して、いつまでも灰のまま持っている可能性がある。
そんな精神状態で迷宮に潜るのは危険すぎる-が、だからといって急かすことが出来るはずもない。
「クロックは盗賊だし転職の予定もないんだから、しばらくの間代役をたてても構わないだろう」
ティーカップが、ギルガメッシュ名物の「仲間募集掲示板」の方を見る。
「そうか。日雇いの盗賊とか短期バイト希望の盗賊、結構いるしな」
トキオが言うと、一番掲示板に近いブルーベルが立ち上がった。