48.精鋭

「パーティ全員無事でワードナ倒して、魔除け持って城行って、階級章貰って…よくよく見れば、あれ?ってなもんだ。同じ階級章つけた奴を城ん中で何人も見てたからな」
キャドは全員の食事があらかた終っているのを確認すると、煙草を咥えた。

「まあ、その時ゃワードナ騒ぎの前から親衛隊だった連中だろうと思ったんだよ。でも親衛隊の宿舎行ってその連中と話してみりゃあ、どいつもこいつもワードナ倒して親衛隊に入ったってんだ」
キャドの吐いた紫煙を更に吹きながら、グラスが続ける。

「で、その中には俺も含まれてたわけだ。同じような立場の親衛隊員は40人ばかりいてな。これはどういうことなんだって頭つきあわせて行き着いたのが、-このワードナ騒ぎ自体、トレボー王が強い軍隊作る為に仕組んだもんだ、って結論だった」

確かに、自分達などより遥かに腕の立つ連中はざらにいるのに、何故、彼らにワードナが倒せないんだろうと思うことはあった。
それほどワードナが強いのだということで片づけようとしていたが、納得していたわけでもない。それはずっと全員の頭の中にあった疑問だった。

「ワードナって形の-最強の魔術師だかなんだか知らないが、とにかくそういう一定の強さを持った存在を置いておいて、それを倒せるような奴等だけを親衛隊に入れる。実力主義の採用法としては、単純で一番間違いないやり方ってわけだ」
グラスがシキの肩を撫でながら言う。
隣に座ってから、ずっとどこかしら触りっぱなしだ。

「だから、迷宮半分は親衛隊になれるかどうかの腕試しの為に作られたもの。残り半分は親衛隊になった奴等が腕を上げる為に作られたものなんだと考えれば-」
「無駄の多いつくりにも納得がいく、と…」
イチジョウが腕を組んで唸った。
「ま、あくまで推測でしかないんだけどな」
「広大な迷宮を作って、怪物を放って、尚且つ高い地位と多大な報酬を与えてまで結成する精鋭部隊。…ですか」
ただ国を護る軍隊を作るにしては、あまりに費用も手間もかかりすぎている。

「そんな軍隊わざわざ作るってことは…」
トキオが真剣な顔で呟く。
「…大きな戦争でもはじめる気なのかな?」
ヒメマルが言うと、キャドが頷いた。
「かもな」

トレボー王は狂王の呼び名がある程の、いわゆる暴君である。
どこを相手にでも戦争をはじめる可能性は多分にある。
この王の代になって以来、今までにも何度か隣国と小競り合い的な戦争はあったのだ。

親衛隊に入れば生活は補償される。
しかし、間違いなく戦争に駆り出される。
軍隊に入るということは元々そういうことではある-が、近いうちに必ず起こる戦争への出征が前提の軍隊入りとなると話は違ってくる。

無言の時間が過ぎる。
それぞれが、それぞれの事情で思惑を巡らせている。

「ま、あくまで憶測で、実際にはどうなんだかわからねえが-よく考えてみるこった」
キャドは立ち上がると、ベルの耳元に何か囁いてから軽く手を挙げて店を出て行った。

「じゃ、俺達も部屋に帰るか」
グラスが、今はもう膝にまで乗っているシキの頭を撫でて立ち上がった。
「あ、今日は本当に-」
正面にいたトキオが慌てて言うと、
「まあまあ、もういいよ」
グラスは笑って、すっ、とトキオに顔を寄せた。

「大きいんだって?」

「、へ!?」
トキオが振り向く前にその肩をポンと叩くと、グラスはシキを小脇に抱えるようにして行ってしまった。

「ど、どうする?」
トキオはメンバーに向かって、かなり間の抜けた声で質問した。
「単純に、打倒ワードナ・目指せ親衛隊入り-ってわけにもいかなくなってきましたかね」
イチジョウは天井を仰いで、唸り混じりに言う。
「今の話を事実だと仮定して、今後どうするかを考えてみた方がいいかもね~」
ヒメマルが片手を顎にあてる。
「んじゃあ、それぞれ今晩中にどうしたいか考えてきて、明日意志発表、方針決定ってことでどうだ?」
ヒメマルが提案すると、
「そうだな、僕はもう眠い」
ティーカップがさっさと席を立った。
「ほな明日。10時?」
「10時で」
頷いて、トキオも立ち上がる。

パーティはそれぞれの寝床へ向かった。

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