47.会食

「ムラマサたぁ、ラッキーだったなあ」

助けてくれた2人-侍のキャドと、ロードのグラス、それにシキをまじえてトキオ達のパーティは夕食をとっていた。

このロードがシキのパトロンだと思うと変に緊張してしまって、トキオにはあまり夕食の味がわかっていない。
シキは全く平気なようで、グラスの耳元に口をつけるようにして何か囁いたり、サイコロステーキをフォークでつついてはグラスの口に運んだりしている。

「キャドはどんな武器を使ってるんですか?」
侍だから気になるのだろう、イチジョウが訊く。
"さん"付けは気持ち悪いからやめてくれと言われたので、呼び捨てだ。
「俺のはカシナートだ」
チキンに噛りつきながら、キャドは腰の剣を軽く叩いた。
「うわ、見せて見せてえ」
隣に座っているクロックハンドがせがむ。
「おう、いいぜ」
キャドはテーブルに背を向けて、剣を抜いて見せた。
「おお~これが名剣カシナート~」
クロックもそちらを向いて、興味深そうに眺めている。

「そうか。5階に降りようとして9階まで行ったのか」
グラスがワインを飲みながら言う。
「ちょっとした手違いで…」
「いや、あながち間違ってもないんだよ」
「え?」
パーティの目がグラスに集まる。

「3階には入ったか?」
皆、首を振る。
「トラップだらけで、行っても意味のあるフロアじゃないって聞いたから」
ヒメマルの答えに、グラスは頷いた。
「あそこと一緒でな。5階から8階に行っても何もない。やっぱりトラップだらけで、しかも3階なんかよりずっとタチが悪いときてる」
「というと、…5、6、7、8…四階層も、意味のないフロアが続いてるんですか?」
指折り数えて、イチジョウが怪訝な顔をした。

しかも-それぞれの階を踏破しなければ下の階へ進めない、というわけではなく、エレベータで9階まで直行出来るのだ。
グラスの言ったことが本当なら、それらの階層が存在する理由は全く見当たらない。

「意味のないフロアは何の為に…」
ブルーベルが、全員の意見を代表する台詞を口にした。

「全部の階を丁寧に巡るのが常套だと思ってる連中に、ワードナのじいさんが仕掛けた罠。…って言う奴もいるけど、多分-」
グラスがキャドを見る。キャドは頷いて、
「俺達の間じゃ、無意味に見える階層は、親衛隊の為に王さんが作らせた訓練場なんじゃないか、ってことで一致してる。」
そう続けた。

「…え?」

<強力な魔術師であるワードナが、国宝の"魔除け"を盗み出して、迷宮を作り、その奥深くにたて篭もっている。"魔除け"を取り戻した者には、貴族に等しい親衛隊の地位を与える。>

そういう話だったはずだ。
…その御触れを出したはずの王自身が、迷宮の階層を「作らせた」とは、どういうことなのか。

トキオだけでなく、他のメンバーも、疑問を顔一面で表現している。

「俺とキャドは軍隊に入ってから知り合ったんだ」
グラスが懐から何か取り出した。
「俺もキャドも、それぞれ別のパーティでワードナに会ったことがある。倒したことがある。もちろん"魔除け"も-持ち帰った」

机の上に置かれたそれは、ワードナを倒した者だけに与えられるという、親衛隊の階級章だ。

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