46.お宝
ギルガメッシュまで戻る途中、トキオとティーカップは揉め通しだった。「ボタンを押した時に他のボタンに盾が当たった気がしたから、デュマピックで何階かを確認した方がいいと言おうとしたんだ」
「そういうことなら殴ってでも止めろよ!」
「先走っておいて偉そうなことを言うな」
「まあまあまあ、みんなどうにか無事だったんだしさあ」
ヒメマルが二人をなだめようとする。
「今回のことはいい教訓ですよ」
イチジョウはしみじみと言った。
手が冷えているらしく、ブルーベルは自分の指を暖めるようにゆっくり摩っている。
本当ならもっとティーカップやトキオを責めるべき所なのかも知れないが、まだ全員興奮状態が続いているせいか、強い言葉が出て来ない。
「なあ、この宝帰ったらすぐ識別しよな!あんなバケモンが持ってたんやから絶対ええもんやで」
景気づけるように、クロックハンドがぼろ布に包まれた戦利品を取り出した。
*
シキはギルガメッシュのいつもの場所にいた。今回は識別結果をすぐ聞きたくて、メンバー全員がシキを囲んでいる。
「そんなにやばい奴相手だったのか?」
ぼろ布をさっさと除けながら、シキが言う。
「9階でな、ものすげえドラゴンだったんだ」
トキオがボディランゲージで"ものすごさ"をアピールしてみせる。
「そういうのに限って幻滅の短剣だったりするんだよ。あんまり期待しない方がいいぜ」
布の中から煤けた鞘が現われた。
「…んん?」
湾曲というほどではないが、刃が少し反っているようだ。
「これ、錆びてんのか?」
トキオの顔が少し曇る。
「さあてね。呪われたら金出してくれよ」
シキが柄に手をかけて、その刀身を抜き出した。
パーティも、シキも、皆一様に息を呑んだ。
紫がかった燐光のような妖しい光を放ちながら、あくまで白い-一点の曇りもない-その美しさ。
「…ムラマサ…だ。」
しばらく目を細めていたシキは、識別結果を伝えると妖刀を鞘に納めた。
「ムラマサって、…侍しか使えないっていう…アレか?」
トキオが訊くと、シキは頷いた。
「ま、今は宝の持ち腐れだな。売ってもかなりの金になるけど」
「売らねえよ、勿体ねえ。滅多に見つかるものじゃねえんだろ?」
「もちろん」
「ちょっと、持ってみていいですか」
イチジョウがおずおずと手を挙げた。
「何遠慮してんだよ、どうせイチジョウのもんだぜ」
「いいんですか?」
皆、頷く。
「サムライになる予定があるのはイチジョウだけだしね」
ヒメマルが言うと、
「当分は分け前減らさせてもらうけど~」
クロックハンドが横でニカっと笑う。
「もちろんです、これが貰えるならお金なんていりませんよ」
イチジョウはムラマサを抱きしめている。本当に嬉しそうだ。
「戦利品、どうだった?」
「どれどれ」
9階で助けてくれた2人が覗きこむようにして輪に入って来た。
「あ、どうもさっきは-」
トキオが改めて礼を言おうとした時、
「お帰り!」
シキが椅子を蹴って、ロードに抱き着いた。