45.赤竜

エレベーターからドアまで駆けつけたティーカップを含めて、パーティ全員が声ひとつ出せない状態になっていた。

轟音は、巨大な赤いドラゴンの咆哮だった。

その余韻で、空気は未だびりびりと震えている。

動けない。

脳の中身が、思考する部分が、身体から離れてしまったようだ。

皆一様に、只、真っ赤な竜を呆然と見上げている。

-殺される。


もう一度、大きな咆哮が部屋中を震わせた。

ドラゴンの首が大きく上に仰け反る。
ブレスが-

「メイジ!!カティノ、マダルトだ!!!」

大声が聞こえ、意識が現実に引き戻された。
ヒメマルとベルがはじかれたように呪文の詠唱をはじめる。

「前衛、防御!プリースト、モンティノだ、急げ!!」

トキオとティーカップが盾を並べるようにして、心許ないながらもパーティ全体を庇う格好になり、後衛が盾の範囲に入る体勢になる。
モンティノを唱えているイチジョウをフォローしきれないのが多少不安だが-

ドラゴンの喉が、大きく膨れ上がった。


一瞬の無音状態の後、


凄まじい熱波がパーティを包み込んだ。
盾で庇いきれない部分が強く痛む。

イチジョウのモンティノに続いて、ヒメマルの詠唱が終った。
放たれた呪文は-

ドラゴンを沈黙させ、その上、眠らせた。

「やった!!」
思わず盾の陰から顔を出すトキオを、
「動くな、任せよう」
ティーカップが引き寄せる。

ベルのマダルトが、眠りに入って赤い山のようになっているドラゴンに降り注ぐ。
ヒメマルは再びカティノを唱えはじめている。
イチジョウは防御体勢に入った。
*
ドラゴンはその後目を覚ますことなく、数度目のマダルトで息絶えた。

宝箱が残されているのを見て、火傷もかまわずクロックハンドが走り寄る。

「…これが…5階の怪物かよ…?」
トキオが掠れた声を出した。
まだ地が足についていないような感覚だ。
「いや…」
ティーカップが言いかけた時、後ろから声がした。
「ここは9階だぜ」
パーティが振り向くと、侍とロードが立っていた。

「声をかけてくれたのはあなた方ですか、ありがとうございました」
イチジョウが1人づつに回復呪文を使って火傷を治しはじめた。
「ほっときゃ死んじまいそうだったからなぁ」
侍-キャドは、ブルーベルの方を見てウィンクした。
「知り合い?」
ヒメマルが訊く。
「まあね」
とはいえ、ブルーベルもロードの方は知らない。やはり軍人だろうか。

「ちょっと待ってくれ、9階ってどういうことだ!?」
トキオは慌てて言った。
「ここは地下9階だ。どうも、間違って来たみたいだな」
ロードが腕を組む。

「お前、9階のボタン押したのか!?」
振り向くと、
「だから待てと言ったじゃないか」
ティーカップは、お前が悪いといわんばかりの顔をしている。

「、お前、どんだけ、な、何考えて-いくらお前が突拍子もないことするにしても、いくらなんでも」
トキオがあまりのショックに言葉を選びかねていると、
「まあまあ、モメるのは上がってからにしな、このへんはあんなのばっかりだぜ」
キャドがエレベータを指差した。

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