44.Pエレベータ
1時になって、メンバーが集合した。「トキオ、ほんまに転職した?」
クロックが首を傾げる。
腰につけているメイス以外、外見がほとんど変わっていないのだからそう言われても仕方がない。
「だから髪なり服なり、少しはひねれと言ったのに」
ティーカップがつまらなさそうな顔で言う。
「お前が横でグチャグチャ言うから新しいものに挑戦出来なかったんじゃねえかよ」
「自分の度胸がないのを人のせいにするな」
「勿体ないな~、せっかくイメチェンするチャンスなのにさぁ。髪はやっぱり伸びたんでしょ?」
ヒメマルが聞くと、ティーカップが答えた。
「ボウボウでまるで原人だった。それはそれは似合わなかったぞ」
「出てきたばっかのとこ見りゃ誰だってそうだろうよ」
「リーダー、転職の時に起きるっていう時差の違和感はないのか?」
ブルーベルがトキオの顔色を眺めながら言う。
「あ、それはなんか大丈夫みたいなんだよ」
「神経が鈍いんだ」
「逞しいって言え!!」
「それじゃあ早速行きましょう、さっと行ってさっと肩ならしして、今日はさっさと戻りましょう」
「なんかイチジョウ急いでない?」
クロックが落ち着きのないイチジョウを気にする。
「いやあ、気のせいですよ」
「また4階か。もう飽きてきたからエレベータに乗ってみないか?」
「昨日はお前の肩ならしの為にとどまったんだぞ?俺がお前と違って僧侶の装備になってんの忘れんなよ」
「君のは自業自得だ。能力値が上がらなかった自分を怨みたまえ」
「歩きながら話しませんか、ねえ」
「やっぱり急いでる~」
そんな調子で4階に降り、軽い戦闘を二、三度こなしてみたが、トキオがパーティの足をひっぱるようなことはなかった。
「君は戦士でも僧侶でも大して変わらないのか?」
ティーカップが不思議そうな顔をしている。
「…」
喜んでいいものだかわからないトキオは、複雑な表情だ。
「まあまあ、今日はティーが落ち着いてるっていうこともありますしね」
イチジョウがフォローする。
しかしこうなってくると、まだ乗ったことのないエレベータが気になってくるのが人情だ。
"プライベートエレベータ"という表示を見上げて、パーティは無言になった。
これを使えば、もっと下層に潜っていける。
「…ちらっとだけ…覗いてみたぁない?5階…」
クロックハンドの一言に、全員が唸る。
「行きたいのはやまやまだけど、好奇心で全滅することって有り得る…し…ねえ」
ヒメマルがトキオを見る。
「潜ったことのある人に、話聞いてからの方がいいかも知れねえ、…かな」
トキオがイチジョウに振る。
「慌てずに、一度戻った方がいい…ですかね?」
イチジョウの言葉に、かぶせ気味にブルーベルが言う。
「1階下へ降りるだけなら、突然敵のレベルが急激に上がるっていうことはないと思うけど…」
「みんな降りたいんじゃないか。ちょっと顔出すくらいどうってことないだろう」
ティーカップが、あっという間にボタンを押した。
4階までのエレベータと同じように、少し視界が揺れてすぐにおさまる。
移動した先は、三方が壁に塞がれ、一方だけにドアがある、小さな部屋だった。
「ドア開けて見回して、帰ろうか」
トキオが言うと、メンバーは頷いた。
ティーカップだけが、エレベータのボタンをじっと見つめている。
「行くぜ、ティーカップ」
「待て、一度デュ…」
「何だ?」
言いながらトキオがドアを開いた直後-
轟音が部屋中に響き渡った。