32.5.口下手(1)
パーマをかけたわけではないから、シャワーを浴びて鏡を見ると、立てた髪がすっかり寝てしまっている。-陸に上がりたてのカッパや~ん。
自分でもちょっと可笑しい。
首にタオルをかけると、裸のままでベッドへ向かう。
クロックは、部屋の中では必要がない限り服を着ない。
「フィリップ、」
やはり裸で、先にベッドに入っていたミカヅキが、体を起こす。
彼の髪もやはりすっかり降りていて、顔つきは迷宮にいる時からは想像出来ないような弛緩の仕方をしている。 見慣れていなければ、同じ人間に見えないだろう。
「き、今日。ごめ…ん」
少しまわりの悪い舌で言う。
普段はこうではない。
それどころか真逆で、雄弁、多弁と言っていいぐらいなのだ。まだビショップだった時に他のビショップと討論を始めて、口から言葉が出てない瞬間がないような状態になったのを見たことがある。
なんで自分の前ではこうなのか、と訊くと「緊張するから」という答えが返ってきた。
クロックには、そういう感覚はよく理解出来ない。
「反省してるんやろ?もうせえへんな?」
「うん。うん」
「せやったらもうええ。けど、次やったら知らんぞ」
「し、しない」
シーツを捲ると、もう半勃ちになっている。
慌てて隠そうとする手を払い、固くなりはじめているそれを腹の方へ倒した。
「あ、っ…」
クロックがその上に跨る。合わせるように、ミカヅキは上半身を横たえた。
「お前、迷宮の中やと、ずいぶんかっこええなあ」
クロックはミカヅキに覆いかぶさるように肩の横に手をついて、至近距離でそう囁いてやる。
「…ぅ」
股の下で、質量が増えるのがわかる。
「呪文は何でも使えるし、強いし、逞しいし、スマートやし、顔もええし」
頬を撫でて甘い声で続けると、ミカヅキの目が潤みはじめた。不意に、
「相手には不自由せんやろ?」
つき放すように言うと、クロックは体を起こした。
「他の奴とつき合うたらどうや」
「!!!っ、」
ミカヅキは思い切り頭を振ると、勢いよく起き上がった。
クロックの体が太股の上にずれ、乗られていた股間が2人の間に顔を出す。
対面座位に似た格好になった。
「お前やったらよりどりみどりやぞ?」
クロックは笑うような視線で言う。
「嫌だ」
ミカヅキは、珍しくハッキリした言葉を使った。
「お前なあ…」
クロックは呆れたような顔をすると、いかにも面倒くさいという様子で続けた。
「いつも思うてることやけど、なんで俺やねん?いじめてくれるからか?そんな奴なら他にいくらでもおるやろ?口が達者な奴がええんか?それも他におるやろ?体が小さい奴が好きなんか?それもおるやろ。それ全部持ってる奴やないとあかんのか?それでもおるやろ」
「い。、ち、がぅ、っ」
思うように動かない舌がもどかしいのか、ミカヅキは眉を顰めると、両手で自分の口元を押さえた。
そのままじっと、呼吸を整えている。