30.竜と忍者

全員揃った所で、トキオ達は改めてテーブルについた。

「今日の予定決めようぜ」
「ティーが転職直後ということを考えると、無理せずに慣れた所でしばらく勘を取り戻す方がいいでしょうね」
全員頷く。
「4階で肩ならしするか」
ティーカップはまだボケっとした顔をしている。
「なあ、こないだ見つけたリボン、あれは何なん?」
クロックが言っているのは、死の指輪の騒動の時に一緒に見つけた、ブルーリボンのことだ。
「宝箱に書いてあったことからすれば…使えなかった"プライベートエレベーター"だっけ?あれが使えるんじゃねえかな」
「リボンで~?」
クロックが首をかしげる。
「どうせ同じ4階だし、それも試してみようぜ」
*
すっかり使い慣れたエレベータで4階に降り立った時、パーティの目に入ったのは1人の忍者の後ろ姿だった。
迷宮を徘徊している忍者達ではなく、冒険者のようだ。
その向こうにはガスドラゴンがひしめいているが、彼はただひとり、である。

トキオは、思わず息を飲んだ。
-ベテランかも知れねえけど、群れ相手にひとりってのはマズイんじゃねえのか?

ドラゴンの中ではそう強くない部類に入るとはいえ、ガスドラゴン5、6匹に一斉にブレスを吐かれてもピンピンしている者はそうそういないと思う。
-っても…なあ
熟練の冒険者に、初心者から抜けた程度の自分達の手出しは逆効果にもなり得る。大体、助太刀自体がEの選択肢ではない。エレベータは近いし、逃げようと思えば逃げられるはずだ。
スタイルのいい立ち姿には、焦りも何も感じられない。
-お手並み拝見ってとこか?

他のメンバー達も同じ考えのようだ。じっと目の前の光景を見つめている。

不意に、先頭の1匹が襲い掛かった。
忍者は姿勢を低くして-

それから先は、見えなかった。

見失って戸惑ったトキオの目の前にガスドラゴンの醜怪な首が落ちた直後、流れるような呪文詠唱の声が聞こえ、突然の爆風がパーティを襲った。

-ブレス?じゃねえ!?なんだこりゃ…っ!?
立っていられないほどの激しい風にまかれ、-しばらくしてどうにか目を開けると、ガスドラゴンの死骸が目に入った。

…6匹。

1匹は首を飛ばされ、残りは全て壁に叩きつけられて死んでいる。

忍者は死骸の向こう側で、何も無かったかのように-相変わらず絵になるスタイルで静かに立っていた。

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