25.指輪

他のメンバーにブルーベルと彼を休ませるための宿の手配を任せ、トキオは4階で集めた多くのアイテムをシキに鑑定してもらっていた。その最中、
「うわっ、なんてもん持って来るんだよ。早く持って帰れよ!」
シキは突然大声でそう言うと、指輪を放るようにしてよこした。
「な、なんだよ?」
トキオは目をしばたかせて、改めてその指輪を見た。
ちなみに、今回も例の肉体労働識別料は取られずに済んだ。どうやらあれ以来識別料を取るのはやめたらしい。理由はよくわからないが、パトロンが関係しているのは間違いないだろう。
今回持ってきたアイテムは結構な数だったので、全てに一回ずつあの識別料を取られていたら、いくらトキオがタフでもさすがに参っていただろう。

「死の指輪だよ。よく持って帰ってきたな」
シキは触るのも嫌だという風情で、その指輪を見つめる。
「どういうアイテムだ?」
「持ってるだけで、人の生命力を奪っていっちまうんだ」
「それって、装備しなくても?」
「そういうこと。すげー危ないアイテムなんだよ。地上では効果がなくなるみたいだけどな」

納得がいった。
この指輪は、ブルーベルが持っていたのだ。

「でも、持って帰ってこれたなら、それなりの見返りはあるよ」
「え?」
「ボルタックで売ってみな」
シキはニヤリと笑った。
*
トキオはボルタックで死の指輪を含むいくつかのアイテムを売却してから、エコノミーの宿屋に向かった。フロントで待っていたティーカップに連れられて、ブルーベルの部屋に向かう。
「随分重そうだな」
トキオが両手に下げた金貨袋を見て、ひとつをティーカップが持ってくれた。
「サンキュ」
「何か高価な物があったのか」
「ああ、詳しいことは部屋で話すけど、だいぶ余裕出来そうだぜ」

部屋に着くと、ブルーベルはベッドに横になり、ヒメマルはベッドの端に腰をかけていた。
イチジョウとクロックは簡素なテーブルについている。

ティーカップとトキオは金貨袋をどさどさとテーブルに置いた。
それを早速開いてみたクロックが驚く。
「えっこれ凄ない!?宝石も入ってるやん」
他のメンバーも何事かという顔をしている。

トキオはシキの鑑定結果と、ボルタックでの売却価格を告げた。

「25万GP!?」

メンバー全員が、素っ頓狂な声をあげた。

「苦労して持ち帰った甲斐があったじゃないか」
ティーカップがブルーベルに笑顔を向ける。ベルは微笑み返した。
「ひええ、なんで俺、今日美容院行っちゃったかな~」
ヒメマルが情けない声を出す。
「あ、そうか、ヒメマルの取り分がカイルに充てられるんだよな」
トキオが言うと、クロックは心底同情するような声で言った。
「ヒメちゃんついてな~い」
「あぁ~」
「功労者には多めに分配しましょうね」
イチジョウが言うと、トキオは頷いた。
「そうだよな、えーと…」
「他はひとり4万で、ブルーベルは5万にすればいいんじゃないか」
ティーカップが言った。
「考えさせろよ、俺どんどん馬鹿になってんだからよ」
トキオが困ったような顔で抗議する。
「自覚があったのか」
「自覚はねえけど、そう判定されてんだから仕方ねえだろ」
「ああ、そういえば、僕は明日の午前中は休みだ」
ティーカップは思い出したように言った。

「ん、なんでだ?」
トキオが尋ねる。
「ロードになってくる」
「え」
「すごい、やったね!」
ヒメマルが我が身の不幸を忘れて祝福する。
「我がパーティのエリートクラス第一号ですね!」
「かっこええ!」
イチジョウもクロックハンドも興奮気味だ。
「おめでとうございます」
ブルーベルまで、身を起こしてそう言ったが、
「…へえ、そっかあ」
祝福してやりたい気持ちと、置いて行かれたような気分とが入り交じって、トキオの口からはそれだけしか出てこなかった。

*


他のメンバーがそれぞれの寝室に帰った後、ヒメマルだけが部屋に残った。
「…あのさ」
買った指輪を渡そうと思っていた。
「何」

けれど、指輪で酷い目にあったわけだから、しばらく見たくないかも知れない。

「…いや、また今度にするよ」
ヒメマルはそう言うと、出口に向かった。
「上から下まで、すごく変わったな」
背中に、笑いを含んだ声が聞こえた。
「やるならとことんやらなきゃあね」
言いながら、髪をかきあげてポーズをつくると、ヒメマルは振り返って言った。
「養生しなよ。おやすみ」
「ああ」
扉を開けた時、もう一度ブルーベルの声がした。
「似合ってるよ」

ヒメマルは照れ笑いをして頭を掻くと、部屋を出た。

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