24.カント前

宝飾店巡りをしているうちに、あっという間に夕方になってしまった。
ひとつの店でゆっくり選んでしまう上に、人に似合うものまで考えてしまうから、余計にはかどらない。
-ま、お金もそんなにないことだし。
結局ヒメマルは、指輪をひとつだけ買った。
それも自分のものではなく、ブルーベルにプレゼントする為のものだ。似合うと思ったら、本人につけてもらわないと気がすまない。コーディネイター向きの性格なのだろう。
-合わせてみないとわからないモノって多いからな~
今度は本人を連れて来よう。
そんなことを考えながら、ディナーを摂りにギルガメッシュへ向かった。


「あっ、…ヒメちゃん?」
カントの前を通った時、声をかけられた。
疑問系なのは、髪の色も何もかも変えすぎたせいだろう。
「あ、クロック!みんな帰って来てんの?」
「う…ん」
「どうしたのさ」
言った後、ここがカントの前なのだということに気がついた。
「麻痺?毒?」
と言っても、イチジョウがラツモフィスもディアルコも使える今となっては、イチジョウ本人がそういう状態にならない限りはカントに用はないはずだ。
目をやると、寺院の入り口に固まって他のメンバーが立っていた。
イチジョウは、…いる。
いないのは、
「ベルか?」
「…」
クロックハンドは俯いた。その反応で、ただごとではないのがわかる。
ヒメマルはメンバーの所へ駆け寄った。
「ベルが死んだのか!?」
すぐにヒメマルとわからなかったらしく、一瞬の間があった。
「…あ、ヒメ…」
トキオを押しのけて、ヒメマルはカイルに詰め寄った。
「カイル!!あんたがついてたんだろ!?」
「落ち着け。戦闘で死んだんじゃない」
カイルが静かに言う。
「!?」
強く握られているヒメマルの拳を、イチジョウがそっと握った。
「原因が…わからないんですよ」

話はこうだった。
4階の敵にも慣れてきたので、パーティは探索を始めることにした。
といっても、カイルはパーティバランスを崩さないように、基本的にはヒメマルと同等レベルの呪文しか使っていなかったので、パーティ全体はカイルの力に頼って無理をしていたというわけでもない。

うろつくうちに、「モンスター配備センター」と書かれた、いかにも何かありそうな所を見つけ、そこで多少手強い魔物の一団と戦った。

その後、モンスターの持っていた宝箱と、奥の部屋にあった宝箱を開けてアイテムを見つけ、そのまま地上に戻ろうとした。

途中でベルがふらついていたので、毒にやられたのかとラツモフィスをかけたが、回復する様子がない。
カイルとクロックハンドが支え、イチジョウがこまめに回復呪文を唱えながら1階まで辿りついたが、エレベータ前のダークゾーンを抜けた時には、既に息をしていなかったのだという。

「考えられるのは、何か急性の病気…ぐらいなんですが」
「…」
ヒメマルは両手で顔を覆った。
「私も何度か蘇生の世話になったが、そう失敗するものではない」
カイルがそう言った時、扉の向こうから寺院の司祭がベルを抱えて現われた。
「蘇生しました」
ヒメマルが進み出て、ベルを抱き取る。
「それでは」
司祭は形式的な礼をすると、寺院の奥へ消えた。
「本当に料金分の仕事しかしないんだな」
ティーカップは素朴な感想を口にした。蘇生させただけで、回復は一切しないことを言っているのだろう。
「ディオスなら残っていますから、少しだけでも…」
イチジョウが呪文を唱えると、ブルーベルは深呼吸するように大きく息を吐いた。

「仕事は終わりだな」
カイルがすっと踵を返す。
「あ、報酬」
トキオが呼び止める。今日の探索の分の稼ぎを人数で割ったものが、ヘルプの報酬という約束だった。普通、レベルの高いフリーランサーはもっと取るものなのだが。
「計算しておいてくれ。次に会った時に貰う」
片手を軽く挙げると、カイルは後ろ姿でそう言った。

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