23.昼食
2時間かけてカットを終えたヒメマルは、早速新しいローブを着込んだ。-ギルガメッシュでランチを摂って、午後は宝飾店巡りをしよう。
髪もいい感じに決まったし、今日の予定を考えるとそれだけでワクワクする。
ギルガメッシュの客はまばらだった。
冒険者の食事時はバラバラで、ランチタイムだから混むというわけではない。
お喋りが好きなヒメマルは、1人の時はいつも、適当に話し相手を探して食事する。
ぱっと見てわかるような「Eらしい」人がいないので少し困ったが、例の、全滅したというGパーティの少年がひとりでいるのが目に入った。
「やあ」
「え?」
声をかけると同時に、同じテーブルにつく。
こうすると、よほどの理由がないと断りようがない。
「大変だったんだって?」
少年はしばらく困惑したような表情でヒメマルを眺めていたが、確信のない声で言った。
「…あの時の、ボルタックのエルフの…パーティの人、ですか?」
「そうだよ。あ、すぐわかんなかった?イメチェン成功~♪」
「あなたEじゃないんですか?」
「そうだけど?」
「だったら…」
少年は周囲に視線を走らせた。
ギルガメッシュでGとEが同じテーブルについていると、それぞれの属性の者にあまりいい目で見られないのは周知の事実だ。
「そんなに人いないし、いいじゃない」
「はぁ…まあ…」
ランチが運ばれて来た。
「3階が、ひどいとこだったって話を聞いたんだけど」
ヒメマルが切り出すと、少年の表情が凍り付いた。
「…あ、言いたくなきゃ別に」
「…回転床とシュートに振り回されて…」
少年はその時のことを思い出したらしく、頭を抑えた。
「同じつくりの十字路だらけで…デュマピックも切れて、どこにいるのかわからなくなって…ただ、仲間は、ベテランの人達が地上まで運んでくれて、どうにかみんな、カントで復活出来ました」
少年は、ぼそぼそと話した。ヒメマルはあたりを見回す。
「その人達とは、組んでないの?」
「…4人が、二度と迷宮に入りたくないって…。1人は復活後、Eになりましたから」
「君は、まだ潜るの?」
メンバーがどんどん死んで行く中、ひとりで取り残されるという経験は、強烈なトラウマになるだろうと思う。
「恐かったですけど…僕は、親衛隊に入らなきゃならないんです」
「入らなきゃならない、っていうと」
「実家…貧しいんです。父はいませんし、母も体が弱いし、弟も3人いて、まだ小さいんです。…だから僕が親衛隊に入って、みんな楽に暮らせるようにしてやりたいんです」
「大変だねえ」
境遇もそうだが、Gであることについて、ヒメマルはそう感じた。
ヒメマルなら、兄弟が幼いなら幼いで、家族全体で出来ることを探すだろう。単身命懸けで迷宮に潜ろうとは思わない。 -自分が死んだら残された家族がどうなるかっていうのは、考えないのかな。それどころじゃないのかな…
ヒメマルには家族がいない。実際にそういう環境で育った者にしかわからない考え方があるのかも知れないが-
色々と言いたくなったが、GとEの討論ほど無意味なものはないこともわかっているから、ひとことだけ言って席を立った。
「人を大切にするのはいいけど、同じくらい自分を大切にしてやらなきゃ、自分が可哀相だよ」