22.フリーメイジ
「何それ、ペアルックやん！ぶふー」ギルガメッシュで先に待っていたクロックハンドは、トキオとティーカップを見て吹き出した。
「宿で売ってんのがこのデザインの服しかなかったんだよ！」
苦虫を噛み潰したような顔で、なおかつ赤面しながらトキオが喚く。
「えー！？トキオ、ティーの部屋泊まったん！？」
「泊まったけど何したわけでもねえよ、なあティーカップ」
「彼は誰なんだ」
ティーカップは、クロックハンドの横にいる見慣れない魔術師をしげしげと眺めてそう言った。
こっちの会話など全く気にしていないらしい。
－ムキになってる俺の方が意識してるみたいじゃんかよ。
実際そうなのだが－これからは平気な顔をしていようと、トキオは心に決めた。
「あのな、今日一日ヒメちゃん来られへんねやて。この人はヒメちゃんのギルドの知り合いで、カイルさん。Ｅで、マスターレベルの魔術師やねんて。ヒメちゃんの代理してくれるてさ」
紹介を受けて、メイジは軽く会釈した。
「あ、俺、一応このパーティのリーダーで、トキオっす。よろしく」
「よろしく」
握手をしながら改めて眺める。エルフのような顔立ちのヒューマンだ。
落ち着きのある雰囲気から年上かと思ったが、よく見るとトキオよりも若いのかも知れない。
「で、ヒメマルはなんで？」
「美容院やて。新しい服買うたから髪切りたくなったんやと」
「あー」
それぞれ軽い自己紹介と挨拶を済ませて、今日の探索の予定を立てた。
それを総括して、トキオが言う。
「午前中は昨日と同じくエレベータ付近をうろついて、４階のモンスターに慣れる。一度休憩に戻って、午後から探索に入ろう。もし午前中の戦闘で不安が残った場合は、午後もひき続きうろつくだけにしておく」
「まとめ方がさまになってきましたね」
迷宮に下りる途中、イチジョウがそう言ってくれた。
「そうか？」
トキオは笑顔で返した。リーダーに向いてないと思っていたので、近頃の自分にはちょっと満足している。
－これで、次に訓練所行った時には知力の判定が上がってくれりゃあいいんだけどなあ。下がってたらへこむよなあ。
「カイルさんて、普段パーティ組んでる仲間とかおるん？」
クロックハンドが聞いている。
「いや。欠員のあるパーティの補佐をしている」
「フリーランサーなんやぁ」
「組まないのには理由でも？」
魔術師として興味があるのか、ブルーベルが聞いた。
「この方が性に合っている」
「なーる。マスターレベルっていうと、全呪文使えるてことやんね？」
「ああ」
「若いのに大したものですね」
イチジョウが感心する。
「…最初に降りたのが10階だった」
「いきなり10階！？」
ブルーベルが珍しく大きな声を出した。
「ベテランと…ですか？」
イチジョウが聞く。
「私以外の５人が皆ベテランだった。そんな状況で間を置かずマスターレベルになったのは当然で、大したことじゃない」
全員、思わず唾を飲み込んだ。
ベテランと深層へ潜り、多大な経験を積むことは、マスターレベルへ到達する手段として一番手っ取り早い方法だ。
しかし、初心者が10階の魔物と対峙するのは並の精神力ではとても無理である。実戦経験も体力もない初心者が10階のモンスターの魔法を受ければ、当然即死ということもある。相当リスクの高い手段だ。
「それはいい手だな」
ティーカップだけが、呑気な声で言った。
*
ヒメマルは、行き付けの美容院にいた。新しいローブのデザインに合う髪型にする為だ。
「色もさぁ、変えちゃいたいんだよね～」
「オッケー！」
美容師がご機嫌な声で答える。
お気に入りのスタイルこそが生活に潤いを与え、探索を楽しいものにする。
それがヒメマルの譲れない考えだ。
美容院に行くから今日は行けないなどと、Ｇのパーティにはとても言えたものではない。
－いやー、Ｅのパーティで良かった。
多分メンバー達は「しょうがねえな、あいつ」ぐらいに思ってるだろう。
何か愉快な気分になって、口元がほころんだ。
「ヒメマル君、何考えてんの～？まーた"自分ってカッコイイ"とか思ってんじゃない？」
すっかり顔馴染みになった美容師が、カットしながら笑う。
「そんなのあっったりまえじゃあん」
ヒメマルが気取った顔で言うと、美容師は驚いたような顔をして、大袈裟に口に手を当ててから、
「そうだよね～、ごめ～ん」
そう言って大笑いした。
訊いてみたことはないが、彼もＥだろう。
ヒメマルは、商売人がＧだったら、何かと気苦労が多いのではないだろうか、と思った。
