21.モーニング
完璧に寝不足だ。ベッドの誘惑に負けてティーカップの部屋に泊まることにしたものの、ベッドはひとつだし、ティーカップは寝る時に服を着ないし、背中に触れる体温が気になるし、壁一枚隔てた隣の部屋からは男の喘ぎ声が聞こえるしで、どうしようもなくなって起き上がって横を見たらティーカップの寝顔にドギマギして、トキオは目茶苦茶慌ててしまった。
-やばい、これはやばい。
トキオは自分の思い込み易さをよくわかっている。
好きなのかも、などと一度思ってしまうと、しばらくしたら大体本気になっている。
-違う違う、これは好きとかいうんじゃないぞ、考えない考えない考えない…
そんな風に思おうとすると余計考えてしまうもので、結局、体は疲れているのに神経が昂ぶって全く眠れなかった。
朝、幾分顔色も良くなったティーカップは、ベッドに腰掛けて憔悴しているトキオを見て変な顔をした。
「君は馬小屋じゃないと安眠出来ないのか?貧乏性だな」
「…そうかもな…」
「ここはモーニングもつくんだったか?」
「早く服着ろよ」
「そういえば服も欲しいな。全部洗ってしまったし」
「洗ったぁ!?」
「君のも洗ったぞ。風呂場に乾してある」
「…今着るものは?」
「ない」
「どうやって外出るんだ!?」
「考えてなかったな」
「お前ってなんでそうなの?」
備えつけのパジャマ(といっても簡素な布の服だが)を着ているトキオがフロントまで行って、とりあえず着られるようなものが何かないか聞いてみることにした。
「ついでにモーニングがあるかどうかも聞いてくれたまえ」
「悠長なこと言ってんじゃねえ!」
トキオが扉を開けると、昨日の寝不足の原因のひとつになった隣室から人が出てきた。
「あ」
「あ」
イチジョウだった。
血だらけのティーカップを背負った彼も、やはり昨日の服は洗ったのだろう。侍や忍者のような東方風の服を着ている。
「…と、トキオ君も、エコノミーに?」
「あハイ、でもあの」
「何をやってるんだー」
後ろからティーカップの声が飛んで来た。どっと汗が出る。
「い、い、い一緒にとと泊まったけど何もしてないからさ、俺達は」
今度はイチジョウが赤面した。
「お、遅くまですいませんでした」
「…」
「…」
「も、モーニングってあるんスかね、ここ」
何故かトキオは敬語混じりだ。
「え、ええと、私も初めて泊まりますので、それは、どうでしょうか」
「朝食なら一回あたり2GP追加でつきますよ」
イチジョウの後ろから、昨日の侍が顔を出した。
「あ、そっすか、ども!」
トキオは素早く踵をかえして、階下のフロントへ猛ダッシュした。