18.3階の噂

三時になって、トキオ達のパーティはギルガメッシュ入り口に集合した。

「イチジョウ、イチジョウ、どうやったんさ、侍?なあ、なあ。告白とかされたん?ナンパ?ナンパ?」
クロックハンドが"うひゃー"という擬音の似合いそうな顔で聞き続けている。
「どう…どうと言われましても、ただ、まだサムライにならないのか、と聞かれただけですよ」
赤くなりながら、イチジョウが答えた。
「嘘やあーん、ほんまにぃ?ほんまにぃ~?」
「と、トキオ君、今回の予定は」
「怪しい~」
「追求は帰って来てから、みんなでしようよクロック」
ヒメマルが笑ってそう言った。

「はいリーダーに注目!えー、今回の予定ですがー」
「あれ、なんでトキオってば、ティーのマント持ってんの?」
話を進めようとしたトキオの言葉を、ヒメマルが遮った。
「あ、やっぱりそれはティーのマントだったんですね」
イチジョウが、トキオが小脇に抱えているマントを見ながら言う。
「ティーのマントが青いから、どうしたのかと思ってたんだよね」
「どうしてトキオ君が持ってるんですか?」
「ん、んなこた俺が聞きてえよ」
トキオは狼狽している。

「馬臭いから君にやろうと言うんだ。感謝くらいしたらどうなんだ」
ティーカップは眉を寄せると、やや投げやりに言った。
「馬くさ…お前な」
トキオの肩から力が抜ける。優しさでもなんでもなかったようだ。
「そりゃ寝てる時にかけてくれたことは感謝するけどな、こんなのもらったって着けようがねーんだよ、このまっかっかぁなマントが俺に似合うと思ってんのか?」
「僕に似合うものが君に似合うわけないだろう。馬小屋専用シーツにでもしたまえ」
「むっかっつっくー!!」
「予定はどうなってるんですかあ、リーダー、いちゃつくのは後にしてくださぁい」
ヒメマルが茶化す。
クロックハンドはニヤニヤしているし、イチジョウは、自分から話がそれたのでホッとしているようだ。 ブルーベルは微妙な表情で視線をそらしているが、どうやら笑っているらしい。

「予定!!」
トキオはマントを勢いよく肩にかけると、大きな声で言った。
「2階は大体歩き尽くしたみたいだ。3階に降りようと思う」
「やめた方がいいぞ」
間髪入れずにティーカップがそう言った。
「なんでだよ」
「前に僕に食ってかかってきたGくんがいたろう。さっきギルガメッシュで会ったんだが」
「…ああ、ますらおの鎧でもめた子か。その子がなんだ?」
「全滅したと言っていた」

空気が一瞬止まった。

「彼ひとりだけが生き残ったそうだ。瀕死で倒れている所を、ベテランに助けられたらしい。随分と恐ろしい目にあったようだったぞ」
メンバーの顔から血の気が引いた。
ここの所、危険らしい危険に直面していなかった為に、全滅の恐怖を無意識に忘れかけていたのだ。

「…でも、」
トキオが沈黙を破った。
「そんなこと言ってたら3階の探索はいつまで経っても出来やしないんじゃねえか?」
「急にモンスターが強くなるってこと…かな?」
ヒメマルが思案顔で言う。
「めっちゃ強なってから行かなあかんっていうことなんかなあ」
「3階の危険性に、レベルはあまり関係ないようですよ」
イチジョウが静かに言った。

「イチジョウ、何か知ってんの?」
ヒメマルが聞く。
「ササハラ君が…私に声をかけた侍ですが。彼が言っていました。3階はトラップだらけで、熟練パーティでも滅多に足を踏み入れないらしいです。くれぐれも避けた方がいいと」
「3階を避けるって…そんなこと出来んのかな?」
トキオが呟くと、
「1階にエレベーターがあったろう。あれで確か4階まで降りられる」
ティーカップが思い出すような目をしながら言った。
「いきなり4階か…。イチジョウ、その侍さんから、4階のモンスターがどういう感じとか、そういう話は聞いたか?」
トキオが訊ねる。
「やはり2階よりは強いモンスターが多いようですが、2階を踏破したパーティなら、慎重に巡れば大丈夫のようですよ。あまり詳しく話を聞けたわけじゃないんですが」
イチジョウの答えを聞いて、トキオはしばらく考えてから言った。
「じゃあ、一旦エレベーターで4階まで下りて、その周りをウロチョロして、モンスターの強さを確かめるか。探索は今回はしないってことで」
全員頷いた。

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