17.納得と否定
クロックハンドはトキオの正面に腰を下ろした。「よ、彼氏とはどうなった?」
「一応継続っちゅうとこ」
言いながら、クロックハンドはトキオが握っている真っ赤なマントに目を留めた。
「何それ、ティーのマントと違うん」
「あ、うん。そうみてえ」
「なんや~、そうやったん~?」
ものすごいニヤつき方だ。明らかに何か勘違いされている。
「えっ、ちょ、違うぞ、別にこりゃ、勝手に置かれてただけで、なんでもないぞ!?」
「2人で馬小屋こもって何してた~ん」
「うわわわ、やめてくれ、冗談じゃねえよ」
「嘘ぉ~、隠さんでええよぉ~?」
「違うって!!」
トキオは激しいボディランゲージつきで徹底的に否定した。
「お前、お前こそなんだ。その、彼氏の部屋行ってスッキリして来たんじゃねえのか」
話を変えようとするトキオに、クロックは胡坐に腕組みのポーズで答えた。
「まあ蹴飛ばしてきたから、スッキリはしたけど」
「…ほんとに厳しいな…」
「きついんちゃうて。あいつもそういうの好きやねん」
「あ…そういう趣味、あんのか」
「そういうこと。…でもなあ」
クロックの声が沈んだ。
「ん?」
「なんか…なんやろう。なんかしっくりこおへんていうか」
クロックハンドは、首を捻った。
「あいつ、見てくれはええ男やし、俺のこと好き好き言うし、甲斐甲斐しいし、体も相性ええし、言うことないはずなんやけど…俺もあいつのことそれなりに好きやとは思うねんけど、…ときめかへんちゅうか」
「つきあい長いのか?倦怠期じゃねえの」
「抜けた三ヶ月引いたら半年くらいかなあ。でも、最初からわりとそういう感じやってん」
「うーん…自分が好かれてる方だと、そういうことってあるよな」
トキオは少し考えると、
「そういえば、好みのタイプは頼りになるアニキ系って言ってたもんな」
「そうやねんけど。あいつ、頼りにならんわけと違うんよ。俺とおる時はなんやら気ぃ弱そうに見えるけど、他の人とおる時はわりとキリっとしてるし、キビキビ喋りよんねん」
「クロックは、自分の前でもそういう感じでいてほしいんじゃねえの?」
「そうなんかなあ。確かに普段の状態の方が好みではあるからなぁ」
クロックハンドは難しい顔をする。
「俺なんかは、普段キリっとしてる奴が、自分の前でだけヘナヘナになったら、ギャップで結構ときめくけどなぁ」
「あ~、そういう風に考えてみたことはなかったわ。ギャップを楽しむかぁ。ええかも知れんね。ちょっとそれでいってみるかなぁ」
クロックハンドはしきりに頷いてから、顔を上げた。
「んでトキオのそのマントはどういうことなん」
「え?いや、だから、寝てる時にかけられてたみたいで、マジなんでもないんだよ」
「へえ、ティー優しいやん」
「んー、まあ、そうなんのかな、これに関しては」
「俺にはトキオとティーって結構仲良う見えるんやけどね。トキオはティーのことどう思てんの?」
「どうっつっても…」
今までにティーカップに振り回されたり、痛烈な皮肉を言われたりしたことばかりが脳裏に浮かんで、トキオの顔はどんどん険しくなる。
「そんな顔せんでも…」