10.マーフィー

1階の探索にも随分慣れてきた。マーフィーズゴーストに出会って以来、疲れるまでマーフィーをいじめて帰って寝る、そんな毎日がかれこれ二週間ほど続いている。
マッパーをしているイチジョウによると、1階で行ってない場所はもうほとんどないようだ。 一方通行のドアや、ダークゾーンに慌てたりしたものの、致命的な問題は特に起こっていない。

トキオは少し前に見つけた<?鍵>を二つ持って、ギルガメッシュに行った。
前に鑑定してくれたビショップ、シキは、相変わらず店の隅にいる。

「識別、頼めるか」
「ああ」
シキは手を差し出した。
「え?」
「見せろよ」
「識別料はもういいのか?」
「…しばらく貰いようがない」
「どうかしたのかよ」
<?鍵>を渡しながら聞くと、
「ちょっとお仕置きされちまってさ。痛いんだよ」
「ああ」
トキオは納得した。パトロンがいるのにあんな識別料の取り方をするからだ。
「でも、お前のやってること知ってるんじゃなかったのか?」
「色々あってさ。識別料、後で貰ってもいいんだけど、あんたには前に3回ぶんぐらいまとめて払って貰ったし、いいよ」
-懲りてるわけじゃないのか…
トキオはシキの隣の椅子に座って、鑑定を待った。

ややあって、
「こっちが青銅製の鍵…と、こっちは銀製の鍵だな。」
シキはそう言うと、トキオに鍵を返した。
「何に使うのかまではわからないぜ」
「わかった、サンキュ」
シキにカクテルを一杯おごって、トキオは酒場を出た。

*
マーフィーは呪文無効化能力が高く、魔術師の二人はやる事が少ないので、最近とみに暇をもてあまし気味だ。
そんな状況の中、元々誰に対しても苦手意識を持たない性質のヒメマルは、ブルーベルと会話する機会が増えていた。
今も、トキオを待つ間、馬小屋でのんびり話をしている。

「ベルがG嫌いなのにはなんか理由あるの」
ヒメマルが軽く訊く。
「別に。見てると虫酸が走るだけ」
「ベルは生まれつきのEなのかもね」
「かもな」
何度か話しているうちに、ヒメマルは、ブルーベルがティーカップに対してだけ敬語を使うことに気づいた。その理由を聞いてみたが、笑っているような曖昧な表情を浮かべるだけで、何も答えてはくれなかった。
-気があんのかな~?
言うこともやることも無茶で好き勝手に我が道を突き進む、Eの典型のようなティーカップが、"生まれつきE"のブルーベルには丁度魅力的に映るのかも知れない。

当のティーカップは、少し離れた所で高いびきだ。

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